ゲームシナリオの受託業務を行っているとよく出会う謳い文句に、『高品質なシナリオ』という文言があります。
でも、『高品質』といっても、シナリオって『選び抜かれた高級素材』のような原料があるわけでも、『職人が手作業で行った美しい縫い目』が見えるわけでも、『製品毎の品質のバラつきが無い』といった目に見える信頼感があるわけでもないし……そんな風に感じたことは、ありませんか?
極端にいえば、シナリオは文章の塊です。
『小説もそうだけど、文章の良し悪しなんて、好みの問題でしょう? この世にハルキストがいれば、大のハルキ嫌いもいるように』――そう思われる方は多いと思いますし、一定レベル以上の文章については、同感です。それでも。
たかが文章の塊、されど文章の塊だと、弊社は思うのです。
シナリオは完全オーダーメイド
受託業務として最も大切な目標は、『発注側に満足頂けること』に尽きます。
ゲームシナリオの場合もそれは全く同じです。
「そんなの当たり前だ」と仰るライターの方。本当に、発注側の満足ラインを認識しているでしょうか? 発注される側の方。本当に、何が必要かつ満足できる内容なのかを正しく伝えられているでしょうか?
熱意。作品やジャンルを好きであること。
極端な話、そんなものは、品質には全く関係ありません(好きであるに越したことはありませんが)。
一番大切なことは、相手が何を望んでいるかを、できるだけ正しく詳細に把握することだと、弊社は考えています。いわゆる要件定義を明確にする業務です。
たとえば、「服にこだわりのある人のための一点ものの服を注文されたけれど、何が好きで何が嫌いかを聞いたら気を悪くされちゃうから、突っ込んで聞けない!」……といえば、そんな残念な話はないとおわかり頂けるのではないかと思います。憶測に憶測を重ねて(熱意を込めて)作ったとしても、「それじゃない」と言われるのは目に見えています。まして、(好意を込めて)自分の好みをエッセンスに加えても、それは注文主にとっては、単なる押し付けでしかないかもしれません。
ゲームシナリオも同じです。
大勢で作るたったひとつの作品のために、最も望まれる形が必ず存在します。
それは、他のパーツ(仕様や設定など)がまだふんわりした段階の発注かもしれませんし、ベストな形を一緒に探してほしい発注かもしれません。
非常にシステムと密接な形のシナリオかもしれません。
ゲーム作品も、発注側の要望や状況も、ひとつとして同じものはありません。
ゲームシナリオは、完全なオーダーメイド品なのです。
ですから弊社は、作品のために最も望まれている形が共有できるまで、どこまでもヒアリングを行い、確信を持ってシナリオ作成に臨みます。
どうぞ、弊社に一緒に考えさせて下さい。作品に限りなくフィットしたシナリオを仕立てるために。
品質の基準は、確かに存在する
……といっても、文章の品質って何なんでしょうね。
文章のスタイルも、言葉の意味も、時代によってまず変化します。というより、流行が存在します。そして、ひとつの時代を取っても、『良い』と言われる文章には無数のスタイルが存在します。
たとえば、ざっくりと大正、昭和初期。
名文家と呼ばれる芥川龍之介の文章は非常に硬質でシンプルなことは、よく知られていると思いますし、現代でも読みにくいとは誰も言わないと思います。でも、その同時代には、全くスタイルの異なる作家、泉鏡花や谷崎潤一郎らの流麗な文章で紡がれた物語が多くの人を魅了していました。生々しい一人称語りで全国の中二病心を魅了し続ける太宰治が活躍していた傍ら、決して難解ではない文章で、どこか物悲しく美しい幻想文学を紡いでいった、小川未明や宮沢賢治。
彼らの文章の、どれが正解で、どれが『高品質』なのか。
時の洗礼を経て、現代に生き残った文章たち。問うこと自体が馬鹿馬鹿しい問いだと思います。
そして最終的には、『個々の読者の好み』という主観が、各作品の運命や寿命を決定していくのかなと。たとえばどれだけ文章が上手いといわれても、個人的に芥川龍之介には何の魅力も感じていないとか、古臭いだの何だのと言われても、『ライ麦畑でつかまえて』は野崎訳が至高だと思っているとか、そういう感じのものですよね(笑)。
……ゲームシナリオの話に立ち返ると。
ゲームシナリオは、個人の才能と研鑽によって生み出される文学作品ではなく、多くの人が集って作られる『作品』のパーツです。
他の部品とかっちり噛み合い、引き立て合う必要を帯びた文章です。
(個人でゲームを作られている方なら、全てのパーツをご自身の手で用意し、『ゲーム』として組み立てる作業の中で、肌でお分かりかと思います。)
ゲームシナリオの執筆の際、最優先で考えるべきだと弊社が考えていることは、
・そのシナリオが、ゲーム内でどのような位置づけと役割を持つのか。
・シナリオ内にしばしば配置される『選択肢』は、シナリオ内で効果的に機能しているか。
・実装される演出機能に対し、過不足なく会話を表現できているか。
(ものすごく大雑把にいうと、たとえば「ぶん殴る」「抱きしめる」などの行動を表現する場合なんか、3Dキャラが演技をしてくれる場合と、キャラの立ち絵での表現の場合では、セリフの書き方も変えないといけない。そんなやつですね)
・指定のある分量、または指定が無くても過不足の無い最適な分量で、最適なセリフや発話者を選べているか。
・特にシリーズ物やIPタイトルなど、既に存在して動いているキャラクターがいる作品の場合、どこまでしっかりそのキャラクターを再現して動かせているか。
……などです。
まだまだありますが、必要とされる条件は山ほどあるし、しかも作品ごとのルールを提示された条件以上に見定めないと、最適な形にはなりません。
それらの条件を全てクリアした上で、シナリオの基本中の基本、「シナリオの中でキャラクターたちがしっかりと生きて動いているか」とか、「シーンとして魅力的に構成されているか」「世界観や物語設定に沿い、それを魅力的に活かせているか」「シーンで表現すべき内容を魅力的に表現できているか」などを問われるのかな、と思っています。
よく順序を逆に考えられているライターさんを見かけるのですが、最初にクリアしなければいけないのは、最初に挙げたような『総合作品のパーツとしての条件をきちんと把握してクリアできているか』なのかな、と思いますし、そこがいわゆる戯曲や通常のシナリオとは違う、『ゲームシナリオ』の特殊性なのだと思っています。
ここの把握が追いつかないと、たとえどれだけ個人技として魅力的な『シナリオ』が書かれていても、ゲーム仕様的に合わなかったりして、せっかくの内容がまるっと使えなくなったりするんですよね……。正直もったいないです。
だから、こうした非常にテクニカルな部分で、ゲームシナリオの品質の基準は確かに存在すると、そう考えています。繰り返しますが、汎用的なシナリオの基本スキルはその次に来る基準です。
あ、「文章を書ければシナリオは書ける」とかいう認識は論外だと思っていますし、日本語がおかしいとかそういうのは論外中の論外です(笑)
だからあえて『高品質』を謳いたい
これは、あくまで『受託業務』としての話ですが。
弊社は正直なところ、ただ『高品質』を謳われてもあまり信用できないのですが(だって、何が高品質の基準なのか、見えないじゃないですか笑)、それでも、だからこそ、弊社は高品質なシナリオ作成を約束します、と主張したいと思っています。
弊社が提示できる品質の基準は、先に挙げた
ゲーム仕様に即している、客観的かつテクニカルな要素を叶えている
ことを第一義としています。
「生き生きとしたストーリー」などを売りにされているシナリオ制作はよく見ますし、実際、「シナリオの基本中の基本」の部分だけがライター側でも修行項目とされているように見えることが多いのですが(発注される側も、そのように捉えられている場合もある気がします)、ゲームシナリオライターもゲーム仕様のある程度の理解と把握は必須能力だと思っています。
「シナリオライターは、プランナーでもあるべきだ」という理念と目標をもとに、弊社は一緒に戦って頂いているライターさんには、できるだけその意識や知識を共有するように努めています。その能力を身につける気が無いと、多分、業界では生き残っていけないと思っています。
(書いた文章を『素材』として調整して切り貼りしてくれて良しとする環境が持てれば別かと思いますし、その上でお金が貰えれば良しとして割り切る方もいるとは思います。でも、ライターを名乗るからには、自分の書いたシナリオをできるだけそのまま実装されたいと思うのが人情ではないのかなと思います)。
そして言わずもながですが、そうした客観的に見える形での品質を担保した上で、
「シナリオとしての基本中の基本」も担保しないと気が済まないのが、こだわりの強い弊社の特徴です。
もっと言うなら、その場で発話していないキャラクターの感情や行動の導線まで把握して、発話しない必然性が見えるようなシナリオになっていないと気が済まない。
いわゆる口調のフォーマットがある箇所だけ乱れるような場合、それが必然性を伴っていることがきっちり示せるくらい、ストーリーの開始前から終了後までも、生き続けているキャラクターを描けていないと気が済まない。
お預かりしたキャラクターの立ち位置や世界観に沿った口調や性格、行動原理、背景、専門知識なども、ベターな形でしっかり反映させないと気が済まない(もちろんオーダーを守った上の話ですが)。
モブキャラクターにも背景を感じさせたい。
このように列挙すると、もはやこだわり行動にしか見えない有様ですが(笑)、どれも全てテクニック上の問題として説明できる内容だと考えています。
そして、ここまでこだわってもまだクオリティアップの余地はあるのが、『シナリオとしての基本中の基本」の中身なのだと思います。
足し算引き算、応用、そしていわゆる基本崩し。
それは、基本中の基本をマスターした後のお話だと弊社は考えていますし、受託業務である以上は、やはりオーダーを満足させることがイコール品質だと考えます。
オーダーや基本からはみ出したかったら、自分マターで作品制作に参加できる場所に行ってくれ。
受託業務において、シナリオライターの役割はクリエイターではなく、専門スキルを持った職人です。そこは絶対に外さない。職人として、オーダーの内容を正確に叶えるため、可能な限り把握し(ウザがられても)、手戻りや現場での再加工ができるだけ少ないように努める。
この一点において、弊社は、弊社の技術を『高品質』と謳いたいと思います。
とはいえ、何かを表現したい人がシナリオライターとなったのだと思います。これを読んで、ルールばかりでギスギスしてるよ!と思われるライターさんも多いかと思いますが、技術を身につけて損をすることはありませんし、いずれ自分自身の表現をされる際にも、必ず役に立つものだと思います。
情熱や感性だけで良いものを作れるのは一握りの天才だけですし、その天才たちですら、血の滲むような『基本』の努力をどこまでも続けていることに、畏敬の念に打たれます。
されど、情熱と感性は、走り続ける原動力です。
「引き出しを増やす」とかさもしい理由ではなく、自分自身を豊かに楽しくするために、ライターの方々は、多くのものを吸収してほしいと思います。
弊社メインライターとして、わたし自身の自戒と抱負を込めて。
文責:でこくーる
何かを表現したい人には、必読の書だと思います。おすすめ!